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2008年5月 5日 (月)

40夜ブック・レビュー『天の川の太陽〈上〉』(中公文庫) 黒岩 重吾著

天の川の太陽〈上〉 (中公文庫)

   
批判的な目を保持しながら読んでほしい
                  

この時代を舞台にした小説はほとんどないので、貴重なものとは思うのだが、
あちこちに欠陥が目について、白けてしまうことがしばしばある。
現代もののミステリーで、あれほどに完成度の高い構成力・文章力・表現力を見せてくれた同じ作家とは、ちょっと信じがたい。
文章や視点の混乱もかなり目立ち、本当に本人がすべて書いたのか、疑念が湧く。

そもそも、天武の時代を舞台にしているのに、現代用語がいきなり出てくるのは反則で、
さらに登場人物だけでは説明が不足すると、作者がいきなり登場する。
また、書き手の視点が、時には神の視点で、また時には主人公の視点で、そして便宜的に作者の視点にと、くるくる変わる。
まるで、素人が初めて書いた小説のようだ。

そもそも大海人皇子=天武天皇を採り上げるのに、道教・陰陽道は大前提であり、
多くの事績はこれを抜きにしては解釈も批判も不可能である。
歴史観の問題は、人それぞれでもあるのでさておくとして、不勉強のそしりは逃れないだろう。

これを「決定版」としないよう、今後の読者には警告しておきたい。
補助教材を読みこなすことと並行して、批判的な目線も保持しながら読んでいただきたい。
作者がすでに他界していることは、もはや修正が不能ということで、
貴重な力作であるがゆえに、まことに惜しまれる。

天の川の太陽〈上〉 (中公文庫)

著者:黒岩 重吾

天の川の太陽〈上〉 (中公文庫)

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