3夜ショート・ショート 「無印良品」
無印良品
私がその店に入ったのはまったくの偶然であった。
尾行をまくためにいくつかのビルに入り、すぐに裏口から抜け出るということを繰り返しているうちに、たまたま飛び込んだのである。
そこは、いかにも青山あたりにありそうな小ぎれいでシャレた雰囲気に満ちていて、若い娘たちがあふれている。
これならば尾行しているヤツも目立ちすぎて入りにくいに違いないし、私も、ちょっとだけ恥ずかしいのをがまんすれば、うまく追手をまけるに違いない。
──しかし、私のねらいは、残念ながらはずれてしまった。
この店には“裏口”がなかったのだ。……
「いらっしゃいませ、なにをさしあげましょう」
「あのー、裏口は--」
「は? ウラグチ、ですか? あいにくそういったものは置いてございませんのですよ、なにしろ当店は“無印良品の店”、ブランドにこだわらない良い品だけを扱っておりますもので」
それを聞いた周囲の女性客たちは、口をそろえて、
「田舎者ッ!」
私は思わず一瞬たじろいだが、なにぶん追われている身でもあるので気をとり直して、
「いや、あの、ウラグチ、なんですが、私の聞いているのは」
「ウーラ、グッチでございましょう?」
すると、また女性客たちがいっせいに、
「田舎者ッ!」
そして今度は大合唱。
「ラララ ここは~ 無印~良品の~ お・み・せ・なのよ~ ルールルル」
「こ、こ、こっちですか」
「そちらは従業員の控え室になっております」
「それじゃ、こっち?」
「そこはトイレになっております、どうぞご利用ください」
「いや、私は--」
「ご遠慮なさらずにどうぞどうぞ、なんと申しましてもお客様あってのことでございますから、とにかくサービス第一! お買いものはそのあとでということで」
「いや、その、あの」
「さあさあどうぞどーぞ、ご利用くださいませ。ブランド物の便器ではございませんが、これも当店自慢の無印良品。キレイに掃除してございますから、きっと気持ち良くなさっていただけると思いますよ、さあどうぞどーぞ」
「はあ」
「もちろんトイレット・ペーパーも無印良品! ブランド・ペーパーに負けない品質を誇っておりまーす」
あまりにも熱心にすすめるので、べつに用足しがしたかったわけではないのだが、私はトイレに入るハメになってしまった。
そして私は「なんだかゲイみたいな店員だな」などと考えながら、ズボンを下ろした。
──と、そのとき、ドアがカチャカチャといったかいわないかのうちにパッと開いて、店員が顔を出した。
「よろしかったら、お尻もお拭きいたしますが、いかがですか。あたくしももちろん無印良品。使い心地は、モオ、最高ッ!」
驚いたのなんのって、私は思わず丸出しのまま立ち上がって、なにをするんだっ! と叫ぼうとしたそのときに、ムンズとつかまれてしまった。
そしてそいつは、
「あら立派!──これぞ“無印良品”」
すると、店に群がっていた女性客がいっせいに、
「それもちょうだい」
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コメント
第3話まで一気に読んでしまいました。先生の幅広い作風がとても面白いです。これからも楽しみに読ませて頂きます。
投稿 MT | 2007年12月 3日 (月) 12時44分