20夜 ショート・ショート「花は盛りに」
花は盛りに
あるホテルのラウンジでふたりの男が会っていた。そこはガラス張りの明るいフロアーの片隅で、彼らのほかには商社マンらしい3人連れがいるだけだ。
ガラスの向こうの中庭にはほぼ満開の桜が見える。その下を若い娘たちが三々五々さんざめきながら歩いている。といっても、むろん声は聞こえない。
「今が見頃だな」
ひとりの男が言った。
「うむ、まさに“盛り”だね」
もうひとりの男もうなづいた。
「“花は盛りに”というが、やはり永遠の真理だね」
「同感だ」
「そういえばキミにも娘さんがいたんだっけ、サチコちゃんっていったかな、もう中学生くらいになったかい?」
「この春で高2だよ」
「へ~え、もうそんなになるのか」
「早いもんだよ」
「いよいよ“女”の仲間入りだな」
「とんでもない! まだまだ子どもさ」
「さあ、それはどうかな、そう思ってるのは親ばかりじゃないのかな、お互い身に覚えのあることでもあるしね」
「いやなことを言うなよ」
「真理を言っているだけだ」
「──きょうは何の用かな、まさかそんなことを言うために呼び出したわけじゃないんだろ?」
「うん、そうそう、実は今度結婚することになってね、その報告さ」
「へ~え、こいつは驚いた。てっきりキミは独身主義だとばかり思っていたが、老後が不安にでもなったかい?」
「べつに。だいいち、ボクは“主義”で結婚しなかったわけじゃないしね」
「例の論法か」
「そういうこと。“女”と言えるのは16歳から24歳位まででね。それ以前は子どもだし、25を過ぎたら人間になってしまう。“花は盛りに”と言うじゃないか」
「キミは変態だよ。50歳近くにもなって小娘にしか興味がないなんて。年齢相応ということがあるだろう」
「ふん。──それならキミに尋ねるが、あの中庭を歩いている若い娘たちを見て性的欲望を感じないのか。彼女たちよりも四十女により強い欲求を感じるというのか。もしそうだというなら、キミのほうこそ変態じゃないのかい? 男が性的に健康であるということは、若い娘に目を向けることだろう」
「キミは、セックスしか頭にないのか。もっと他に求めるものがあるだろう。世間の人たちが結婚するのは“人生の伴侶”を得るということで……」
「ほ~う。それならもう一度聞くが、キミは自分の女房や世間の四十女たちから、どれほど有意義なことを教わったのかね」
「──キミには、話したってわからんさ。キミは反社会的人間だからな」
「まあいいだろう。──ところで、ボクの婚約者を紹介しよう。ほら、あそこの──」
そう言って指差す方を見ると、中庭の桜の木の下にひとりの娘が立っている。
「正真正銘の“女”だよ。まだ高2だけど、もう完全な“女”さ」
それを聞いたもうひとりの男は、みるみる驚愕の表情に変わって行く。そして──、
「サチコッ!」
「えっ! そういえば名前が同じだと思ったら、キミの娘だったのか。子どもの頃しか会ってないんでわからなかったなあ。奇遇だね」
そう言って男はニヤリと笑った。
了
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